ナレーター・朗読講師

長澤泰子

【朗読】夏目漱石『夢十夜』・第一夜(読み方解説あり)

2023-12-08更新

『夢十夜』は主語が「私」の小説で、自分が見た夢の話を語りますが、これは誰に対して語っているでしょうか。
例えば語り手も主人公も「わたし」になっている私小説の様な作品を読むときに、朗読者は主人公の「わたし」として読むのか、主人公が自分のことを書いた話を「代読する人」という立場で読むのか。そんな選択肢があると考えてください。

『夢十夜』であれば、誰かに話して聞かせているのか。それとも、今朝見た夢を自分に確認しているのか。この二つが考えられます。
今回の動画は、私は後者として「今朝見た夢を、自分に確認している」ということで読んでいます。

ありありと誰かに話して聞かせるように読むこともできますが、忘れてしまいそうな夢を、備忘として書き付けたものと捉えたわけです。
全体を「書き付け」として考えた場合、セリフをどうするか、書き付けなので、本当はセリフにも鉤括弧がないと考えても良いかもしれません。
この、セリフの読みいかんで、語り具合が調節できます。

腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇くちびるの色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然はっきり云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。

青空文庫 夏目漱石『夢十夜』より

例えば冒頭の、《もう死にますと云う》の部分ですが、やはりたっぷりと「もう……。死にます……。」ぐらいで読んでしまいたくなるところです。
実は、この後の女の長いセリフは鉤括弧がついてくるので、その辺りからは少し演じる感じを出したとして、男の方には鉤括弧なし。
鉤括弧がつくあたりから、だんだん夢の中に入っていくような距離感に自然に引き込まれる感じになるのだなと、考えてみるのはどうでしょう。
そうなれば、初めの方は極力淡々と、徐々に夢にはいっていくイメージで読み進め、鉤括弧がつくあたりから、本格的に夢の回想の中に入り込んでいきます。

そんな捉え方で、鉤括弧から突然女のセリフをそれらしくやるより、力加減を考えてグラデーションをつける様に夢に入っていく感じはいかがでしょう。
鉤括弧に囚われて、そこだけを変えてしまうよりは、あくまで夢の中から抜け出していないのだということを忘れずに読んでみると、また少し、夢十夜のイメージが変わってきます。

しかしこれは、あくまでも夢。自分の中だけのことなので、セリフの読みの塩梅は控えめになっても問題はありません。
これが、誰かに語っているということならば、鉤括弧なしのところも、ありありと伝わる様に読んでいく必要があります。

ひょっとすると私の朗読も、これから読む他の夜に関しては、そのようになるかもしれません。
続けて、第二夜、第三夜と、Youtubeチャンネルにアップしていきますので、引き続きよろしくお願いします。

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